調律4

毎週日曜日(id:ryasuda:20041128, id:ryasuda:20041121, id:ryasuda:20041107)の調律シリーズ。チェンバロは、ピアノと違って、和音がきちんと合っていないと、うなりが鋭く聞こえてうるさいので、平均律は使えず、先週に紹介したキルンベルガー法などの不等分律によって調律されることになる。このような不等分律は、調性によって性格の違う和音を作り出す、という面白い性質をもつことになる。♯や♭のないハ長調では和音は純粋で美しく(5度は実際ややずれているのだが、耳障りなほどではない)、それらが増えていくほど汚いことになる。当時、音楽家たちは、調性による音楽の色の違いを感じてたと思われるが、この不均一調律が寄与していたことは間違いないだろう。ロマン派の後期くらいまで、ピアノもベルクマイスター法という不等分調律が使われていたが、ショパンで#や♭の多い曲は、これらの調律法によるやや汚い和音によって、独特の緊張感を表していた可能性もある。では、バッハの"Well-tempered keyboard(気持ちよく調律された鍵盤による音楽:いわゆる平均律)"は、どのような調律で弾かれていたのか?よくしられているように、この曲集は、すべての調が順番にでてくるので、かなり注意深い調律が必要なはずだ。しかし、これはいまだに統一見解みたいなものはないようだ。バロック後期からロマン派までポピュラーだったベルクマイスター法、弟子であるキルンベルガーの方法、自分独自の調律法など、いくつかの説がある。また、バッハは調律をものすごい速さでできた、という伝説があり、もしかしたら、1曲ずつ調律を最適化することすらできたのではないか、という説もあるのだ。どちらにしても、全ての調において均一にひどい和音を作る平均律は、使われなかったのではないだろうか。

バロック音楽では、ほとんどの場合、チェンバロ通奏低音として入るので、他の奏者も強制的にチェンバロの調律にあわせなければならなくなる。チェンバロは和音を弾くので、他の楽器の音全てが入ってきてしまうのだ。バロックの音楽ではビブラートをあまりかけないので、ちょっとした音程のずれが目立つという事情があり、非常に正確にチェンバロに合わせてやる必要がある。チェンバロは、基本的に5度は完全ではないので、例えばバイオリンの調弦は、一本一本の弦を別々にチェンバロに合わせる。2本の弦を同時に弾いてあわせるやりかたは、チェンバロが入ってるかぎり、ありえないのである。