成長フェーズは簡単:研究予算、人口、経済、エネルギー。

アメリカのサイエンスの予算は、クリントン大統領のときに倍増した。これは短期的には、科学者に幸せをもたらした。でも、当然このような急激な予算の増加が続けられるわけはないわけで、当然あとで問題がでてくる。まず、この予算によってより多くのラボが予算をとれるようになり、うるおった大学は、新しいラボをどんどん作ることにした。新しい研究棟もどんどん建てた。それでラボが増えて、ちょうど予算に比例する数までラボの数が増える。でも、経済収縮などで税収がおちて予算がきつくなってくると今度は予算が微減ということになる。インフレ換算すると、毎年減っている。当然、予算獲得競争は少しずつ激化。ということで、今の状況となる。10%のラボしか予算がとれないとなると、ラボをたたむところが増えていく。最近の獲得競争の激しさは異常ともいわれている。何しろ、毎年1つのラボから一人程度のポスドクや学生が旅立っていってPIを目指すわけだから、予算があると、ラボの数は指数関数的に増えてしまうんである。ということで、増加フェーズではみんな幸せ、減少フェーズでは、一定の割合で不幸なラボがでてしまう。絶対的な予算でなく傾きが大事ということか。絶対的なサイエンスの進み具合は予算に比例するわけで、もちろんクリントンの政策が「悪い」というわけではないだろうが。。。

もちろん、戦争で無駄なお金を使っているせいと考えてもよいのだが、実際はいつかは減少する運命なので、科学者の幸せ度という意味では、同じだと思う。アメリカの経済は前からバブルだったし、戦争で経済を無理やりまわしているところもあったわけだから。

なんか似たようなことを聞いたな、って、マルサス人口論?食料(エネルギーと読み替えてもよい)があれば、その分人口が増える。それも指数関数的に。そして食料増加は決して人口増加に勝つことはできない。化石燃料を大量消費した現代農法が、この人口増加を可能にした。いまのところまだ余裕があるようだけど、もう人口が指数関数的に増加することはできないし、ある一定の割合でかならず飢餓人口がでてしまう。これは、より食料を効率的に分散させることができればある程度先延ばしはできるが、基本は同じ。

経済でも人口でも持続的に成長している間は、何をやってもうまくいく。みんな幸せ。年金みたいのもうまくまわる。でも、世界は、化石燃料の生産もすでにピークとよばれて久しいからして、経済も食料も、これ以上成長できないし、おそらく減少期を迎える。経済の難しい理論は知らないが、最近の経済のバブルやその崩壊のごたごたは、すでにエネルギーのインプットがピークにあるのに経済成長を無理やり起こそうとしたことによるゆがみのように見える。日本は、それほど大きな混乱もなく、ゆっくりと人口と消費エネルギーを減らしているので、このままいけばもしかしたら、自然に平衡点までいけるのかも。でも、経済と人口がなが〜い収縮期に入ると予想される場合、現状の年金システムは当然維持不可能となるので、廃止する必要がある。未来からお金を借りる発想は、長い目でみて、どれもうまくいかないでしょ。

経済や人口の減少はゆっくりで、エネルギーや食料と平衡にあれば、痛みは比較的少ない(かもしれない)。そして、どこかでSustainableな平衡点に達する。そこから大きく成長するような出来事は本当は忌むべきものということになる。そんななかで、今は、こういうところで、うまくすべてを「軟着陸」させられるような、そういういままでと違うリーダーが求められている気がする。いままでは、「普通の人」でも国を引っ張れたが、きっとこれからは本当の意味でのリーダーが必要かも。

ちなみに、政治家に庶民感覚をもとめるような意見があるのがとても不思議。普通の人にリーダーになってほしいのかしら?