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自閉症研究のグラントだから、そういう風に書かなきゃいけない。幸い、Rasは結構神経の病気と関係しているのである。ガンにも関係してるんだけど、神経学科だし、興味からはずれるのであまり追求する予定はない。とうことで、アブスト(下)の最後のほうには、この研究の自閉症やそのほかの病気にいかに重要であることを書いた。もちろん、基礎研究用のグラントだから、審査する側もこれがすぐに治療法の開発につながるとは思っているわけではない。過去にとった人をみてみても、シナプスの可塑性の研究などが多かったりする。この手の研究では、1つパズルがとけると、それが次のパズルを作るという連鎖になって、永遠にパズルは解き終わらない。終わってしまったらつまらないんだけど。。。で、パズルがとき終わった場合は、たとえば今の場合は、脳の機能が分子から説明できるようになった暁には、病気だってなんだって直せるかもしれないけど、きっとそういう日はなかなかこないんだろうなあ。

それから、研究計画をたてるときは、ある程度、仮説があるふりをしなければならない。下の例で、ほとんどきちんとした仮説にはなっていないが、専門化向けのアブストでは、もうちょっと「仮説」っぽい仮説をたてている。でも、画像化プロジェクトというのは、仮説からはじまらないことが多いと思う。「とりあえず何がおこっているかみてみたい」から画像化してみるのであって、「こういうふうになっているに違いない」と思って実験するわけではない。しかし、こういうのって、伝統的な「Hypothesis driven(仮説駆動とでも訳すればいいのかな?)」な科学と微妙に違っているので、研究計画を無理やりそういう書式にするのは、それなりに苦労する。

さて、次は今週中に、あるレビューのドラフトを仕上げること。


一般向けアブストの大まかな和訳:(大分本物と違うけど)

学習記憶は、シナプスによる神経どうしの連絡の強さがかわることによって形成されると考えられている。Rasというシグナル制御たんぱく質は、この神経連絡をコントロールするいろいろなプロセスに重要なことがわかっている。Rasは神経細胞内でカルシウム上昇によって活性化され、シナプスの結合を強くしたり、新しいシナプスを作ったりすることによって神経の連絡のしかたを変える。神経の発火のしやすさを変えることもできる。他にも細胞の生死や分化を制御するのにも重要だといわれる。なんで1つのたんぱく質がこんなにいろいろなことができるのだろうか?私たちは、Rasの空間時間的活性パターンがそのあとのシグナルを決めているのではないだろうか、という仮説をたてた。最近私たちの開発した細胞内シグナルイメージング装置によって、Rasの活性をリアルタイムで、1つ1つのシナプス内でモニタすることができる。カルシウム上昇、Ras活性、細胞反応の関係を調べることによって、Rasが、どのようにしてカルシウムのパターンを変換して、状況にそくしたシグナルを制御をするのかを突き止める予定である。

Rasが記憶に重要であるために、Rasのシグナル制御がうまくいかないと記憶や認識に障害をおこす病気がおこる。たとえば、自閉症神経線維腫症1型、X 染色体性精神遅滞などがRasのシグナル制御の不良によっておこると思われている。このプロジェクトは、このような病気の治療法の開発にも役にたつかもしれない。