調律3

大学時代、バロックアンサンブルでは、チェンバロを借りられるペンションなどで合宿をやったものである。気温の上下のはげしいところだったので、調律を朝夕になる必要があった。まだチェンバロをもっていなかったこともあって、を見ながらいろいろな調律法を試して遊んだ。前回(id:ryasuda:20041121)に紹介した中全音律は、私が初期バロックが好きだったので、密かにやったこともあるのだが、後期バロックをやるグループから「調律が狂ってる」と文句をいわれた。この調律は、それくらい調性や曲を選ぶ。マッチする曲では、透明感のある素晴らしい音楽になるが、そうでない曲は、かなりひどい和音が多く存在して、大変なことになる。

さて、前回は5度(周波数比=2/3)を4回展開したときにできる3度と普通の3度の不一致の話を書いたが、今回はもう1つ、5度を12回展開したときの話を書こう。ドからはじまって、ドソ→ソレ→レラ→ラミ→ミシ→シファ#→ファ#ド#→ド#ソ#→ソ#レ#→レ#ラ#→ラ#ファ→ファドという具合にまたドに戻ってくる。このときの音の周波数比は、最初の音に比べて、(3/2)12=で、129.7463となる。この音は7オクターブ上だから、27で割るともとの音になるはず、、、だが1.0136となって、合わない。その差は役3Hzなので、たいした事はない。この3Hzを均等に分割したものが平均律だから、平均律の5度はかなり純正に近いのだ。

これを見れば、中全音律の問題は明らかで、2Hz近く縮めた5度を8個も作ってるので、最終的にこの5度の円のどこかにしわ寄せがいってしまうわけだ。ということで、バッハのところに出入りしていた理論家のキルンベルガーが、もう少しフレキシブルな調律法を考えた。この調律法では、短い5度が4つだけドソ・ソレ・レラ・ラミだけで、あとは純正な5度にあわせる(1つだけ、あわせないところがあるけど)。ドミはハ長調では純正、あとは#や♭が増える調性ほど、悪くなる。ただし、5度は、ほとんどの場所で純正で、許せるくらい悪いところがいくつかある感じになる。#や♭のすくない調性ではとても美しく、かなりそれらが多くても、まあまあ許せる感じの調律で、バランスがとれている。また、このキルンベルガー調律法は、中全音律よりも、簡単にできるので(5度の分割を1つやればすむ)、チェンバリストの間ではもっとも人気のあるものの1つだと思う。

続きはまた来週。