調律2

どうやら、Web上にも、あちらこちらに調律のよいレビューがあるようだ。例えばhttp://www5.famille.ne.jp/~dr-m/TALKING/temper/temperam.htmには、実際に音階や和音まで聞かせてくれるのがわかりやすい。

基本的に、純正律は、ドの自然倍音をとったものとすると、ドレミファソラシドの周波数比が、 1 : 9/8 : 5/4 : 4/3 : 3/2 : 5/3 : 15/8 : 2 (1 : 1.125 : 1.200 : 1.333 : 1.500 : 1.667 : 1.875 : 2.000) となる。1オクターブ上はちょうど2倍の周波数になることに注意。詳しくは先々週のノートを参照(id:ryasuda:20041107)。おもしろいのは、レミ、ソラの周波数比が10/9(1.111)、ドレ、ファソ、ラシが9/8(1.125)になっていて、ずいぶん不ぞろいなこと。おかげで音階はかなり違和感があるものになっている。(私はこれがピタゴラス律と教わった覚えがあるが、違うようだ)。さらに、この調律では、ドミソ、シレソはうつくしいが、他の和音、例えばレラを弾くと酷いことになる。レを基準に5度上のラをみると周波数比が 5/3÷(9/8) = 40/27(1.4815)となり、本来の純正5度である3/2(1.5000)とずいぶん違うことになる。例えばレを293Hzととると、純正のラは440Hz、上の調律では434Hz。これがどれくらい酷いのか、というのを定量的にみるのに、うなりをカウントする方法がある。

うなり

うなりは、微妙に周波数の違う2つの音を同時に鳴らす、その差に相当する音のゆれがおこる現象。たとえば440Hzと442Hzを同時にならせば、2Hzのうなりができる。みんなこれを聞いて、ハモっている、とかハモっていないとかいってると思われる。例えばレラのような5度の和音を同時に引いた場合、その2倍音と3倍音は、同じ周波数になるはずである。調律がずれてれば、それらがうなりを作り出し、「ハモっていない」ように聞こえる。上のドを基準にした純正律の調律でレラを同時に弾くと、3倍音と2倍音がうなりをつくるので、293×3 - 434×2 = 11Hz差、一秒間に11回うなる、ということになる。これは多分耐えられるものではないと思われる。

中全音律

ドを基準にドソと5度をとって、次にソレ、レラ、ラミと5度を純正にとっていくと、2オクターブ高いミの音ができる。このときの周波数は、(3/2)×(3/2)×(3/2)×(3/2)=81/16となる。これを2オクターブ下にもってくるために4でわると、81/64 (1.2656)。これでドの3度上のミができるはずなのだが、純正の5/4(1.200)よりもずいぶん広い音がとれてしまう(7Hz違い)。さて、ここでミをきちんとあわせてやるために、この4つの5度を少しずつ縮めてやる、ということもできる。2オクターブ上のミは5/4×4=5だから、このときの周波数比は、5^(1/4) = 1.495となり、まあまあ近い。これらの5度は、だいたい2Hzくらい純正よりも狭いが、これくらいは許せるだろう。2倍音と3倍音のうなりがだいたい4Hz程度になるように調律するのがポイント。

この方式で、多くの美しい長3度と許せる5度を作り出したのが、中全音律といわれるものである。この調律法は初期から中期バロックなどで、よく使われていたと思われる。限られた調性において、和音は美しい。音階はかなり不ぞろいに聞こえるが、となりあう全音はちょうど同じ間隔になっている(このため中全音とよばれる)。もちろん、これだけ美しい和音をたくさん作り出すと、しわ寄せもでてきて、ファ#とレ#の間などは決定的にひどい和音を作り出す。ただし、作曲家はもちろん、それを知っていたと思われて、そのようなきたない和音はあまりでてこない。でてくるときは、多分独特な効果をねらってのことと思われる。つまり、この時代の作曲家の音楽を弾くときは、やはり中全音律が正解、ということになるのであろう。実際、この調律のためにかかれた曲の和音の透明感は特別なものがあると思う。

参考文献:チェンバロの調律―バッハのひびきを再現する

来週続きをかくかも。