実験!

昨年度(日本の年度ね)は、日本語補習校の役員になってしまったので、土曜日はまったく仕事ができなかったが、今年度から、子供を補習校に送った後に、研究室に行って実験できるようになった。そこで、学部生のS君と、脳スライスの電気生理のテクニックの中でももっとも難しいものの1つと思われるPerforated patchに挑戦。カレルのところでは、大学院生が毎日2−3個のデータをとっている、という話だったので、対抗意識を燃やす。

Perforated patchとは、ガラス電極の溶液に膜に穴をあける抗生物質をいれて、その穴から電流を測る、という方法。抗生物質があると、膜とガラス電極がしっかりとくっつきにくいので、そのためになかなかうまく電流が測れない。ガラス電極の先端の形状から、溶液条件など、いろいろ系統的に振って、最適な条件をみつけるのが大切だ。朝9:30から初めて、3−4個の細胞ですぐに直列抵抗80-90MOhmの測定に成功。しかしそこから、何十分まっても、抵抗が下がっていかない(穴の数が増える)。ここまでは簡単なのだが、細胞の電位のコントロールをするためには、20−40MOhmくらいまで抵抗が下がってほしい。で、さらにいろいろ条件を変えて、夕方4:00ごろになって、16個目の細胞で、25MOhmまでアクセスが向上、はじめてシナプス電流の測定に成功した。しかも、この後3時間以上も安定に測定できるという、なかなかよい測定となった。

この細胞は、あるたんぱく質の活性センサーを導入してあるので、電流測定と同時に、活性イメージングが可能である。さて、測定してみると、驚くべきことが観察された。いや、驚くというほどではないか。みんながぼんやりと、「そうかなー」と考えていたことが見えてきた、という感じであろうか。見えてしまえば、みんなも納得するだろう。まだN=1なんだけど、最初のデータというのは、興奮する。しかも、活性イメージングのほうも、いままでみたことがないほど、美しいデータである。細胞に大きな穴をあけないで、電位のコントロール、電流測定などができるのは、やはり大きい。これと同時に、すぐに2−3個のおもしろい仮説が浮かんできた。やはり、試してみないわけにはいくまいな。

ついでに、この日には、となりの顕微鏡でも、最近の興奮するような結果がReproducibleであることを確認できていた。こちらはポスドクのH,Jの共同研究で、うむ、結果はかけないが、まあ数ヶ月後をお楽しみに。ついでに、H君は本実験のほうも、彼の仮説を証明できそうな結果がとれつつある。この仮説は、いままでの神経シグナリングにはない概念でもあるからして、本当に証明できれば、業界にかなりの衝撃をあたえるはず。証明は容易ではないからして、数々のコントロールをとらなければならないが、よい論文になりそうな予感。