Basic Science Day

わあ、もう2ヶ月もブログを書いていない。夏休みはウッズホールにいたし、その後も日本にいったりとか、実はネタになりそうなことはあったんだけどね。テニュア取得が近いこともあり、ほかの研究機関での機会が目にはいったりして、最近は、なんだか落ち着かない。もうちょっというと、Duke大学に6年間もお世話になり、とても楽しかったわけだが、やはり研究というのは5年程度で1つの区切りが来るわけで、どこかに移るのもよいかもしれないという気もするわけだ。いままで数年以上ひとところにいたこともないわけだし。次の5年間、どういう研究をどこでやるか、ということはまだ自分自身かなり迷っている。今はこれくらいしか書けないけれど。

それはともかく、最近の話題といえば、次の月曜日、DukeのBasic Science Dayでプレゼンをする。案内はこちら)。メディカルセンターでどんな基礎研究が行われているかを、Dukeの人たちに紹介する会だ。当然、いろいろな分野のトークが入り混じるわけで、内容も学部生がわかる程度の話にする必要がある。Cold Spring Harbor Labのときも、同じような会があったけれど、普段は交流のない学科で、どんな研究をやっているのかを知る機会にもなるし、とても刺激になるのではないかと期待している。

それにしても、会場では基本的にはMacを使わなければならないようで、しかも古いパワーポイントしか入っていないので、ファイルをいろいろ修正しあんければならず、なかなか面倒だった。。。会場でWindowsが使えないというのもめずらしいが、こんなときなので天才ジョブズさんに敬意をしめすのもよいかもしれない。昔は私もMac使いだったし。

Update:::
まちがえて、去年のを張っていた。。。

グラントの書き方

さて、最近NIHからもう1つR01グラント(大型研究予算、1年あたり$150-$250の3−5年が普通か)がとおり、私がPIとなっているR01は、テクニカルには5つになった。複数PIのものが1つ、同僚から引き継いだものを含めてだが、それでもR01に関してはこれまで採択率100%を維持している。おかげで、うちのラボの直接経費予算も$1Mを超え、そのうえにHHMIからの備品予算もつく、というラボが始まった当初かすると、夢のような研究環境となった。これまで敗れたグラントもあるけれど、すべて合わせても80%以上の採択率を維持している。テニュアのほうも問題なさそう。

もちろん、まだR01の審査(Study sectionとよばれる)もやっていないわけで(Tenure前ということで、勘弁してもらっている)、たった4つ5つ連続してとれたからといって(まだ再提出もやったことがない)「勝利の方程式」が見えたわけではないとは思うけど、それでもいろいろな先輩からアドバイスされ、大事だと思う項目を整理しておいてもよいだろう。

1.グラントセミナーにでる
ゲームのルールを知らなければグラントはとれない。一度でもでると、書き方のコツがわかる。

2.いいアイディアがある。
プロジェクトが成功してHigh impactな原著論文が次の5年間に4−5報でる、ということを審査員に納得してもらう、というのが最終的に大事なのだと思う。そういうアイディアが出るまで考えるべし。

3.大きな論文を書く直前が最高のタイミング!
神経学科の学部長ジムからのアドバイス。論文のねたを「予備データ」として使い、そこから派生する問題をグラントにする。すべての技術的なブレークスルーは、グラントを書く段階で解決している必要があるので、どうしても論文が近い状況になる。

4.仮説、または目標は、1文で、明確に。
グラントセミナーより。グラントセミナーは、Specific Aimsの書き方が50%を占める。それだけ大事なセクションなのだけど、そこで1文でかける「Central hypothesis」というものを書く。これだけでProposalらしくなる。この仮説は、「正しくなければいけない」という恐ろしい宿命があり、予備データをたくさん用意して「たぶん正しい」ということを書く。

5.Specific Aimsは3つがいいかな?
グラントセミナーより。Central hypothesisを証明するための3つの実験目標を書く。ここで重要なのは、たとえばSpecific Aim 2をやるために、Specific Aim1の成功が必要であることが、ないようにするのがよい。この「前Aim依存性」は、避けられない場合は、Specific Aim1に関しては、「まず100%成功する」と思わせるだけの予備データを取る必要がある。

6.KISS(Keep it simple, stupid!)の原理
カレルからのアドバイス。何十個ものアプリケーションを読むがわからすれば、複雑なロジックなどもってのほか。簡単に、素人でもわかるように。私自身は、条件分岐はなるべく避けるようにしている。もし必要な場合は、ほとんど、かたほうの分岐のみを考えればいいほど、予備データをためておく。

7.図表を使う。
複数の人より。。1つの図は100行の文章よりも効果的なことがある。表は、個人的には、すべての項目を網羅している雰囲気を出すのに使っている。

8.すべての可能性を考えつくしている、という雰囲気を作る。
グラントセミナーより。仮説が正しい場合とそうでない場合の、「予想される結果」というのはきちんと書いておく。ポジティブ、ネガティブコントロールも大事かな。

9.1月前には書き終え、人にみせる。
当然。グラントセミナーより。

こんなもんかな?Study sectionに言ったことある人の意見があれば、ぜひ聞きたいものです。コメント欄に!

なんで、Woods holeに来るのか?

ryasuda2011-07-10


夏になると、毎年短いときで3週間、最近は夏休みの間中、Woods holeですごす。私がアメリカでポスドクを始める前、神経科学をはじめるときに、9週間のNeurobiology courseをとったのがはじめ。もう11年前にもなる。その後、Dukeでポジションをとったのを機に、毎年コースで教え始めて、その後Lismanと共同で夏季限定ラボを夏の間運営するようになった。

Woods holeのラボではもちろん研究もするのだけど、細切れの時間ではなかなか研究はすすまない。ラボから離れるのには、大きなデメリットがあるし、連れて行った学生はその分仕事が遅れる。。。いちおうMBLのグラントをとってはいるものの、それなりにコストもかかるし。。。3週間くらいは家族も連れてくるのだけど、離れている時間が増えるので、これも???というところもある。MBLのコテージはシンプルで、住みやすいとはいえないし。。。。

ということで、デメリットが大きいので、たまに自分でも「なんでこんなことをやっているのだろう?」と感じることもある。でも、夏には、ものすごく多くの神経科学者がやってくるので、ここはいろいろな意味で刺激的である。Collaborationの可能性を議論したり、普段はできないようなアイディアの交換ができる。

それになんといっても。。。美しい海、空、クーラーのいらない涼しさが、なんといっても魅力なんだろう。夜、海で泳ぐと、夜光虫かくらげかしらないけれど、きらきらと光るのが見える。。。Giant Axonや、GFPの発見など、ノーベル賞をとった研究が多く行われたのも偶然ではない。ここは、神経科学者の聖地?なのかも。

なんか、ここに来るようになってから、研究っていうのは、コミュニティ全体としての努力であって、一つのラボでやるもんじゃないよなあ、と感じるようにもなった。

写真は、コーヒーオブセッションの中。グラントや論文を書くときに来る。

また別れ。

ryasuda2011-06-16


ポスドクのHくんが日本で准教授としてPIの職を得たので、いよいよラボを離れることになった。彼が着てから5年、本当に素晴らしいデータを出してくれたし、ラボみんなの手本として、ラボのレベルを上げるのに貢献してくれた。Dukeでラボをはじめて、すぐに彼のような人材を得られたのは、本当にラッキーだったと思う。今までのうちのラボの成功は、彼の力によるところが大きい。

ということで、Hくんは、みんなに惜しまれながら、ラボを去る。この前は、うちでさよならパーティーをした。うちのラボも10人以上になり、それぞれが家族をつれてきてくれたので、なかなか盛大なものになった。ラボにとっても、初めてPIを送り出すイベントなわけで、みんなもいろいろと盛り上げてくれた。

実は、パーティーは違う場所をとってあったのだが、直前にお酒が飲めないことがわかり、急遽うちでやることになったのだ。3日前に小さいホームパーティーをひらいていたので、たまたま家がきれいになっていた(というか、多分他の家の「普通」レベルかもしれんが)ので、なんとかなった。ほ。。。

これからのHくんの活躍を祈って。。。写真はみんなからのカードを渡しているところ。これからもがんばってね〜。

ラボからどれだけPIを送り出したか、というのは、もちろん、ラボの成功の大事な指標になる。願わくば、これからも、PIになる人が、どんどん出てきてくれるとよいが。次のPIは。。。順番的にはEさんかな?

学会発表の基本とか

今、上海の近くにあるSuzhouというところにある、コールドスプリングハーバー、アジアという学会にきている。本家のロングアイランドの学会と違って、ホテルも学会室も豪華でなかなかよろしい。

さてさて、Vikingさんのところに英語発表の基本について書かれていたので、それにInspireされて、少し学会発表について書いてみようか。Dukeで大学院生たちに「学会発表のしかた」を議論するクラスを受け持っているわけだし(教えているとはさすがにいえないが)。

まず、学会発表のさいに、絶対に忘れていはいけないんだけど、おもわず忘れてしまうのは、

「相手は私の研究の内容に関して、素人である」
「相手は私の研究に興味を持っているわけではない」

という事実。発表のさいに、当然、自分の研究について一番自分が知っているし、自分が一番面白いと思っている。ということで、イントロでは「なんでその研究が重要なの?」ということをきちんと説明する必要があるし、グラフなどは、きちんと読み方を教えてくれないと相手はついてこれない。データの解釈も、自明であるような気がしても、ばか丁寧なくらいに説明する。業界用語や略期は避けるのは当然。しかし、それと同時に、やや矛盾するようだが、

「相手を侮ってはいけない」

というのもあってロジックの飛躍や説明のうそはには注意しなければならない。相手は、私の研究に関してはよく知らないかもしないが、サイエンスのプロでもある。

さてさて、実践的なスライドの作り方として、Dukeのクラスで使っているのは、このスライド。一通り読むだけでとてもよくなるとは思うが、いくつかポイントを。

1. Start broad, get specific, and end broad.  (下の絵のように)
イントロでは、聴衆のほとんどの人が理解できる一般的な話、たとえば分野の大きな目標のようなもの、から初める。そして、順次話しをSpecificにしていき、自分の研究の話題にもっていく。こうすることで、「なんでそんな研究やってるの?」という話が明確になる。そして、最後も同様、自分のやった研究からもういちど大きな話に戻すとよい最後にもう一度一般的な話しにもってくると、聴衆は「この結果はなんで大事だったんだっけ?」というのを思い出すことができる。10分のショートトークでも、サマリーのあとに一言でもBig pictureをみせると、かっこいいかもしれない。

2. トークをいくつかのエピソードにわける。
相手は、長い話をフォローするのは無理。ということで、短いエピソードをつなげ合わせることによって、相手のアテンションが維持できるようにする。特に30分以上のトークでは大事。

3. ホームスライドを使ってエピソードをつなげる。
Home slideとは、それ一枚でトークのすべてを網羅するようなスライドで、エピソードの間に同じスライドに戻ってくるようにして話の流れを明確にするために使う。Home slideの大切さは、クラスでもよく議論するが、実際に上手なものを作るのはなかなか難しい。それに、これは上手なトークをするための唯一の方法ではない。効果的なHome slideを作ると、トークの流れがとてもよくなる。たまに、目次をHome slideに使う人もいるが、これはあまり意味がない。お勧めは、中心となる仮説か結論を絵で表したスライド。

基本的には、イントロダクションの後にHome slideが来て、ここで「今日は、この仮説を証明するための、こういう実験の結果を報告します。」。。みたいなかんじで全体の流れを説明する。このときにすでに結論までの道筋を相手が見えるようにしておくと、相手がついてくる確率が高くなる。たいていの場合は複数の実験結果があるだろうから、それぞれの実験がその仮説の中で何を証明していたのか、次にどの部分の証明が必要なのかを、そのたびにHome slideを使って説明する。結論でもHome slideを使い、「これらの実験で、この仮説のこの部分が証明できました。」というかんじ。「将来はこの辺をつめる必要がある。」という感じのことをいってもいいかもしれない。

発表の途中に大事なのは、
1.Eye contact -- 聴衆のほうを向く。会場の後ろまで声が届いているか確認しながら。
2.レーザーポインター -- 複数のパネルがあるような図をさけ、できるだけ使わなくてもよいようなスライドを作るのが基本だけど、必要なときは使う。必要ないときには消しておく。震える人は、両手でもつようにするとよい。眠っている人がいたらこれを武器にして戦う(うそ)。
3.しゃべりかた −− 相手に伝わるよう、ゆっくりと。スライドの切れ目では、ちょっとポーズをいれると同時に、何かつなぎの言葉をいれる。大事なところは、一瞬間をおいて強めに話すなど、少しトーンを変える。

さて、私の今回のトークは。。。まあまあだったかなあ。25分のトークで最後に時間の計算を2−3分間違えて、スキップしたスライドがあるのが悔やまれる。こういうことをやるのはプロフェッショナルではないよね。


Susan McConnell, From "Giving an effective presentation: Using Powerpoint and structuring a scientific talk".

時間をかけて、High impact journalをめざすべきか?

上記タイトルに関して、ちょっとしたストーリーがこちらのブログに。若手プロフェッサー用の助言。

まだ予備データの段階で論文を出そうとすると、いわゆる「インパクトファクター」の低い雑誌に出すことになる。仮説をサポートするデータをためて、全体で大きなストーリーを形成できれば、出せる雑誌の格はあげることはできるが、そこまでするには、大変な時間がかかる。そしてレビューワーとの戦いの時間も何倍も長くなる。どこで妥協するのが最適なのか、という質問だ。

もちろんこれは場合によるんだけど、「独立の証明」として、最初の論文は早めにだしたほうがよいという考えがのっている。たしかに、ラボが立ち上がっていて、結果がでてきていることを証明するには、やはり小さい論文でも出しておくと違うだろう。もっとも、大きなストーリーになりそうなときに、小出しにするのは悔しいし、そこは難しいところだ。

うちのラボの場合は、最初の原著論文は立ち上げ3年目のBrain Cell Biology。自分がGuest Editorということもあって、サイドでやっていた結果をとりあえず載せた。内容的にはがんばれば高い雑誌を目指せたかもしれないが、他のプロジェクトに力を注ぎたかったため、論文にするためのデータをちょこっとだけ加えて提出した。多分ここで出さなかったらこのデータはお蔵入りだったかもしれない。しかし、この論文のおかげで、あるグラントのレビューで、「PIとしても論文がではじめている」というコメントをもらったことがある気がする。

2報目の2009年のNatureは、メインの結果そのものは2007ごろにはでていたが、データをためてためて大きな論文にした。4報目の2011のNatureもそういう感じだ。やはりこの辺の雑誌にだそうとすると、かかる時間もとても長くなるし、実験するポスドクや学生にも耐久力が必要となる。よく人から、これらの論文は2報にわけられるよね、といわれる。

さて、最近になって出てきた問題としては、プロジェクト途中で学生が卒業してしまったりなどで、断片的なデータがあちこちにある。これらを論文にするのかほっておくのかも考えどころ。がんばれば仕上げられるのはわかっているのだが、サイドのプロジェクトとしてやると、意外とまとまらないという中途半端な状況だ。

すごいな〜

中等部のころの友人たちがやっている気仙沼への物資運搬支援の写真。すでに3往復したようだ。なんと行動力のあるやつらだ。。。同窓の仲間だったことを誇りに思う。

そういえば、ノースカロライナの誇る日本人報道カメラマンIさんもいち早く現地にいって、こちらの新聞にレポートしている。うーん、これもかっこいい。

非常時に、自ら考え行動できる人たちというのは、やっぱりすごいと思う。